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August 20, 2026
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「社会主義」は何を意味するのか――アメリカ議会の議論から
アメリカ議会は、しばらくは3日以上休会にしないように形式的な議会が開かれているだけで、実質的には9月までお休みです。そこで今回は、中間選挙の予備選挙で話題に上ることが多くなったDemocratic Socialist(民主社会主義者)と議会の動きについて解説させていただきたいと思います。
去年の11月4日に、自らを民主社会主義者と呼ぶゾーハン・マムダニ氏がニューヨーク市長選挙で当選したというニュースが報じられて以降、アメリカ各地の民主党予備選挙で、自らを民主社会主義者と分類する候補者が現れ始めています。
このマムダニ氏の当選が大きなニュースとなった直後の2025年11月17日、下院規則委員会で「社会主義がもたらす惨禍を非難する(Denouncing the horrors of socialism)」と題するConcurrent resolution(両院共同決議)の審議条件を定める特別規則のヒアリングが行われました。両院共同決議というのは、大統領の署名を要しないので、法律的な拘束力はありません。ですから、「社会主義がもたらす惨禍を非難する」という決議を審議するのは、もっぱら政治的な意図ということになります。
ただ、「社会主義がもたらす惨禍を非難する」両院共同決議が下院で審議されたのは、去年が初めてではありません。2023年から始まった118会期の1月、同じタイトルの決議が下院に提出され、提出後1週間余りで下院本会議で審議され、賛成328、反対86という圧倒的多数で可決されました。当時は、共和党内にケビン・マッカーシーを下院議長として選任することに対する造反者が現れ、史上最多の15回の投票の末に下院議長が選ばれました。このように混乱した共和党内の結束を示す意味でも、この決議が審議されたと言われています。
日本人の目から見ると、「社会主義がもたらす惨禍」という発想が分かりにくいかもしれません。アメリカでは、冷戦時代から共産主義、特にソ連やキューバなどに対する強い警戒感や嫌悪感が社会に根付いています。一般のアメリカ人の政治的な感覚の中では社会主義と共産主義がかなり強く結びついていると言われています。
さらに、アメリカ南部、特にフロリダ州などには、キューバ、ベネズエラ、ニカラグアといった国に成立した社会主義政権から逃亡し、のちに市民権を取得した国民とその子孫が多く住んでいます。現在の国務長官であるマルコ・ルビオ氏はキューバ系アメリカ人です。そのような人たちにとってみれば、「社会主義がもたらす惨禍を非難する」というのは当然ということになります。
ですから、キューバ系アメリカ人であるフロリダ州のマリア・エルビラ・サラザー下院議員が、2025年10月末に「社会主義イデオロギーは、権力の集中を必要とし、それは何度も繰り返し、共産主義体制、全体主義的支配、そして残忍な独裁政権へと崩壊してきた」という文言から始まる「社会主義がもたらす惨禍を非難する」という両院共同決議を再度下院に提出したというのも理解できます。さらに、63名の共和党議員が共同提出者として名を連ねています。
ただ、この決議の問題は、社会主義イデオロギーの定義が明確になっていないという点です。冒頭でご紹介した去年の下院規則委員会でのヒアリングで、規則委員の民主党筆頭委員が、この決議の付託を受けた金融サービス委員会のヒル議長に対して、「共和党は、民主党が主張することすべてを社会主義だという傾向にあるけれども、この決議にある社会主義の定義は何なのか」と質問し、個々の制度ごとに社会主義の制度であるか質問を続けました。その中で、ヒル議長はメディケアとオバマケアに関して、現在の制度は国側の関与が強すぎるので、社会主義的な側面を持つ制度であると回答していました。ソーシャルセキュリティーとSNAPについては、社会主義の制度ではないと答え、さらに、国家が半導体の会社や国防関係の会社の持分を所有することについても、社会主義ではないと答えていました。
「社会主義がもたらす惨禍を非難する」決議は、2025年11月21日に下院で審議され、賛成285、反対98で可決されました。内訳として、共和党では賛成199票、反対0票、民主党では賛成86票、反対98票でした。2023年2月の投票で、賛成に投票した民主党は109で、反対は86でした。つまり、若干ではあるのですが、民主党内で賛成から反対にシフトしてはいるものの、民主党内でも意見がほぼ二つに分かれていることが読み取れます。
規則委員会のヒアリングの冒頭で、金融サービス委員会のヒル議長は18歳から29歳の62パーセントが社会主義に対して好印象を持っていることへの懸念を表明していましたが、そもそもアメリカでは社会主義という言葉自体の意味が世代や政治的立場によってかなり異なっています。そのため、民主社会主義の問題は、単純に社会主義への賛否というよりも、「社会主義」という言葉を誰がどのような意味で定義し、どのようなイメージで有権者に伝えていくのかという戦術次第で、選挙への影響が変わってくるのかもしれません。


